視力の後遺障害について

1はじめに

交通事故に遭い、顔面に衝撃を受け、眼が損傷することがあります。眼の治療を重ねても完治することは難しい場合もあり、治療後に後遺障害が残るケースもあります。

そして、眼の後遺障害の等級は、自動車損害賠償保障法施行令別表第二に定められており、眼の後遺障害については、視力障害、調節機能障害、運動障害及び視野障害が後遺障害の等級として定められています。

  • 視力障害とは、眼の視力に関する障害をいます。
  • 調節機能障害とは、眼のピントを調節する機能に障害を残すことをいいます。事故後に眼の焦点が合わないと思ったら、調節機能障害が生じている可能性があります。
  • 運動機能障害とは、右眼と左眼の網膜に映る対象物が一致しないために、物が二重に見える状態になったことをいいます。
  • 視野障害とは、半盲症、視野狭窄又は視野変状を残すものをいい、事故後の視野の角度が、正常視野の角度の60パーセント以下になった状態をいいます。事故後に視野の周りが欠けていると感じたら、視野狭窄等が生じている可能性があります。

これらの後遺障害の認定の基準については、「労災補償障害認定必携」(一般社団法人労災サポートセンター2020年)に記載されている、労働災害における後遺障害等級の基準が参考になります。

そこで、本稿では、自動車賠償保障法施行令が定める眼の後遺障害等級(以下「後遺障害等級」といいます。)のうち、①視力障害の認定基準についてご紹介します。

2視力障害の後遺障害の認定基準

視力障害の後遺障害は以下の表のとおりに等級が区分されています。

第1級1号 両眼が失明したもの
第2級第1号 1眼が失明し、他眼の視力が0.02以下になったもの
第3級第1号 1眼が失明し、他眼の視力が0.06以下になったもの
第4級第1号 両眼の視力が0.06以下になったもの
第5級第1号 1眼が失明し、他眼の視力が0.1以下になったもの
第6級第1号 両眼の視力が0.1以下になったもの
第7級第1号 1眼が失明し、他眼の視力が0.6以下になったもの
第8級第1号 1眼が失明し、又は1眼の視力が0.02以下になったもの
第9級第1号 両眼の視力が0.6以下になったもの
第9級第2号 1眼の視力が0.06以下になったもの
第10級第1号 1眼の視力が0.1以下になったもの
第13級第1号 1眼の視力が0.6以下になったもの

「失明」とは、眼球を摘出したもの(「亡失」といいます。)、明暗を弁じ得ないもの(明るいのか暗いのかがわからないこと)及びようやく明暗を弁ずることができる程度のもの(意識を集中すれば、明るいのか暗いのかがわかること)といいます。

つまり、失明とは、まったく見えなくなった場合だけではなく、暗いか明るいかを判断することができる場合も含みます。

次に、失明以外の場合、被害者の視力を万国式試視力表により測定し、その視力をもって後遺障害等級に該当するか検討することになります。万国式試視力表とは、おそらく皆さんも見たことがある「C」の形をした図形を見て、切れ目の方向を回答する視力検査のことです。

視力が、上記の表の各数値まで低くなっており、かつ視力の低下が片眼だけなのか両眼なのかにより等級が変わってきます。視力検査の際は、眼鏡やコンタクトレンズを入れて視力を矯正した状態で行います。怪我などの事情で眼鏡やコンタクトレンズによる矯正ができない場合には裸眼の視力により判定します。

ただし、両眼に該当する等級よりも、いずれか1眼に該当する等級が上位である場合は、その1眼のみに障害が存するものとして、等級が認定されます。

例えば、1眼の視力が0.4で、もう一方の眼が0.01である場合は、両眼の障害としては、後遺障害等級第9級第1号(両眼の視力が0.6以下になったもの)に該当しますが、1眼の視力としては、後遺障害等級第8級第1号(1眼が失明し、又は1眼の視力が0.02以下になったもの)に該当し、両眼の場合の等級よりも上位となりますので、後遺障害等級第8級第1号が認定されることになります。

また、症状固定時に視力が上記の基準を満たしていれば直ちに後遺障害等級が認定されるわけではなく、交通事故により視力が低下したことが認められなければいけませんので、もともと視力が悪く、事故に遭う前から上記の表の視力以下の視力の方の場合には視力障害の後遺障害は認定されません。

3最後に

視力に後遺障害等級が認められるかを判断するのは、自賠責の損害料率算出機構という機関となります。自賠責の損害料率算出機構は、被害者の眼が失明した状態といえるのか又は被害者の視力が上記の表の基準を満たすか否かを判断することになります。

自賠責の損害料率算出機構が後遺障害等級の審査を行うには、自賠責保険に対して、後遺障害認定の申請をしなければなりません。

加害者が加入する保険会社が自賠責保険に後遺障害認定の申請を行う(これを「事前認定」といいます。)場合もありますが、加害者側の保険会社を信用することができない場合は、被害者が後遺障害認定の申請を行うことがあります(これを「被害者請求」といいます。)。被害者請求を行う場合には、定型の資料に加え、認定を有利にすることができる資料も添付することができます。