交通事故で骨折した場合に認められる後遺障害は?
交通事故で骨折をした場合は仕事や日常生活への影響も大きく、また治癒するのか不安になられると思います。
本稿では、交通事故で生じることのある骨折がどのような後遺障害に該当し得るかを解説します。
なお、骨折を生じる交通事故では身体に相当なダメージが加わっており、骨折以外の受傷(打撲、擦過傷など)や複数箇所の骨折があることも少なくありません。
後遺障害の認定では「併合」という考えを用いて、重い方の後遺障害の等級によるか、その重い方の等級を繰り上げて1つの等級を認定することがあります。
1 頭部、顔面、頸部
(1)頭蓋骨骨折
陥没骨折、粉砕陥没骨折、線状骨折などの様式分類、頭蓋骨骨折の生じた部位により頭蓋穹窿部骨折と頭蓋底骨折の分類があります。頭蓋骨骨折では脳の損傷を伴うことがあり、脳の損傷に起因する後遺障害が認定されることがあります。
頭蓋骨骨折をしていても下記で解説する後遺障害に該当しない場合がありますが、どのような状態が後遺障害に該当しうるかは個別の判断が必要なケースがありますので後遺障害に詳しい弁護士にご相談ください。
① 高次脳機能障害
頭蓋骨骨折に伴って脳が損傷すると、高次脳機能障害が残存することがあります。高次脳機能障害は認知、後遺、記憶、思考、判断、言語、注意の持続などが障害された状態です。
交通事故による外傷が治ったとしても、認知機能の低下、性格の変化などで仕事や日常生活がうまくいかなくなり高次脳機能障害に気付くこともあります。
高次脳機能障害は「神経系統の機能又は精神の障害」の後遺障害として、その程度に応じて以下の等級が認定されます。
- 第1級1号:神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、常に介護を要するもの
- 第2級1号:神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、随時介護を要するもの
- 第3級3号:神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、終身労務に服することができないもの
- 第5級2号:神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、特に容易な労務以外の労務に服することができないもの
- 第7級4号:神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、軽易な労務以外の労務に服することができないもの
- 第9級10号:神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、服することができる労務が相当な程度に制限されるもの
②外貌醜状
頭蓋骨骨折による脳の損傷がない場合であっても、骨折と同時に生じた表皮の損傷や骨折の治療のための外科手術などにより頭部、顔面部、頸部に傷が残ることがあります。
それらが一定の大きさであり人目につく程度以上のものと認められれば「外貌醜状(がいぼうしゅうじょう)」として以下の後遺障害が認定されます。
■第7級12号:外貌に著しい醜状を残すもの(原則として以下のいずれかに該当する場合で人目につく程度以上のもの)
- 頭部:てのひら大以上の瘢痕又は頭蓋骨のてのひら大以上の欠損
- 顔面部:鶏卵大面以上の瘢痕又は10円銅貨大以上の組織陥没
- 頸部:てのひら大以上の瘢痕
■第9級16号:外貌に相当程度の醜状を残すもの(原則として顔面部の長さ5センチメートル以上の線状痕で人目につく程度以上のもの)
■第12級14号:外貌に醜状を残すもの(原則として以下のいずれかに該当する場合で人目につく程度以上のもの)
- 頭部:鶏卵大面以上の瘢痕又は頭蓋骨の鶏卵大面以上の欠損
- 顔面部:10円銅貨大以上の瘢痕又は長さ3センチメートル以上の線状痕
- 頸部:鶏卵大面以上の瘢痕
(2)眼窩壁骨折、視神経管骨折
眼球周辺の骨の骨折です。視神経が損傷すると視力あるいは視野障害を生じます。受傷部位の多くは眼窩上外側部(眉毛の外側あたり)であり視神経管骨折を伴うことがあるといわれています。
視神経管骨折は視神経を被う骨である視神経管の骨折であり、骨折による骨の偏位、骨片によって視神経が圧迫または切断されて障害が起きます。
視力障害では、その程度に応じて以下のような後遺障害等級が認定されます。
- 第1級1号:両眼が失明したもの
- 第2級1号:1眼が失明し、他眼の視力が02以下になったもの
- 第2級2号:両眼の視力が02以下になったもの
- 第3級1号:1眼が失明し、他眼の視力が06以下になったもの
- 第4級1号:両眼の視力が06以下になったもの
- 第5級1号:1眼が失明し、他眼の視力が1以下になったもの
- 第6級1号:両眼の視力が1以下になったもの
- 第7級1号:1眼が失明し、他眼の視力が6以下になったもの
- 第8級1号:1眼が失明し、又は1眼の視力が02以下になったもの
- 第9級1号:両眼の視力が6以下になったもの
- 第9級2号:1眼の視力が06以下になったもの
- 第10級1号:1眼の視力が1以下になったもの
- 第13級1号:1眼の視力が6以下になったもの
次に、眼球の調節機能障害、運動障害、視野障害または眼瞼(がんけん。まぶたのこと)の欠損や運動障害が生じた場合には以下の後遺障害等級があります。
【眼球の調節機能障害】
- 第11級1号:両眼の眼球に著しい調節機能障害を残すもの
- 第12級1号:1眼の眼球に著しい調節機能障害を残すもの
【眼球の運動障害】
- 第10級1号:正面を見た場合に複視の症状を残すもの
- 第11級1号:両眼の眼球に著しい運動障害を残すもの
- 第12級1号:1眼の眼球に著しい運動障害を残すもの
- 第13級2号:正面以外を見た場合に複視の症状を残すもの
【眼球の視野障害】
- 第9級3号:両眼に半盲症、視野狭さく又は視野変状を残すもの
- 第13級3号:1眼に半盲症、視野狭さく又は視野変状を残すもの
【眼瞼の欠損又は運動障害】
- 第9級4号:両眼のまぶたに著しい欠損を残すもの
- 第11級2号:両眼のまぶたに著しい運動障害を残すもの
- 第11級3号:1眼のまぶたに著しい欠損を残すもの
- 第12級2号:1眼のまぶたに著しい運動障害を残すもの
- 第13級4号:両眼のまぶたの1部に欠損を残し又はまつげはげを残すもの
- 第14級1号:1眼のまぶたの1部に欠損を残し又はまつげはげを残すもの
(3)鼻骨骨折
鼻骨骨折は受傷直後は鼻血や腫れがみられるとされています。
しかしその時点では骨折に気付かず数日後に腫れが引いて鼻が変形していることが分かり骨折に気付くこともあります。
交通事故により鼻を受傷したかどうかが後日争いになることもありますので、できる限り受傷当日に病院を受診して診察の記録を残すとともに、受傷直後の写真などを残しておくようにしましょう。
鼻の後遺障害は以下のとおりです。
- 第9級5号:鼻を欠損し、その機能に著しい障害を残すもの
- 第12級相当:嗅覚脱失又は鼻呼吸困難が存するもの
- 第14級相当:嗅覚の減退
2 脊椎その他体幹骨の骨折
(1)脊柱の骨折
交通事故により頸椎、胸椎及び腰椎といったいわゆる背骨に骨折が生じることがあります。自動車乗車中の事故のうち対向車との正面衝突など強い衝撃が加わったような場合、若い健康な方であっても背骨の骨折で長期間の療養を要することがあります。
手術を要するものは手術による合併症で新たな麻痺を生じる可能性も否定できないことから、主治医の意見を聞きつつセカンドオピニオンを受けることもあります。
治療期間が長引くときには加害者側からいつまで治療費が支払われるのかが争点になることがありますので、治療中の段階から交通事故に詳しい弁護士に相談することをおすすめします。
症状固定時に骨の変形が残存するのみで日常生活に大きな影響を与えないものもありますが、脊柱の中には脊髄が走行しているため脊髄損傷による重篤な障害を伴うことがあります。
脊髄損傷による麻痺などがある場合には神経系統の障害を伴う障害については神経系統の障害として後遺障害が認定されます。
神経系統の障害以外の変形及び運動障害においては、以下の後遺障害等級が定められています。
【変形障害】
- 第6級5号:脊柱に著しい変形を残すもの
- 第11級:脊柱に変形を残すもの
【運動障害】
- 第6級5号:脊柱に著しい運動障害を残すもの
- 第8級2号:脊柱に運動障害を残すもの
(2)その他の体幹骨
鎖骨、胸骨、ろく骨、肩こう骨又は骨盤骨(仙骨を含む)について、その他の体幹骨として後遺障害の等級が定められています。
例えば、鎖骨骨折は、肩から地面に転倒するなどしておきることがあり、交通事故の中でもバイクや自転車に乗車中に発生しやすい骨折です。
これらの骨の骨折については、裸体となった時に変形(欠損を含む)が明らかにわかる程度のものについて「鎖骨、胸骨、ろく骨、肩こう骨又は骨盤骨に著しい変形障害を残すもの」として第12級5号が認定されます。
また、これらの骨の変形に伴い別の障害も生じることがあります(鎖骨変形に伴う肩関節の運動障害など)。この場合は併合の考えに従い等級が定められます。
3 上肢の骨折
交通事故により腕や手指の骨折をすることがあります。腕には肩から肘まで上腕骨があり、肘から手首までは橈骨と尺骨をいう2本の骨があります。
また、手には手根骨、中手骨などがあります。
例えば、上腕骨近位部骨折は転倒などでも生じることから交通事故でよく見られる骨折です。
(1)上肢の障害
まず欠損障害として、上肢の両方または片方の失った程度に応じて、第1級から第5級までの等級があります。
次に機能障害は、上肢の3大関節である肩関節、ひじ関節及び手関節の可動域の測定値に基づき、以下の等級を定めています。
- 第1級4号:両上肢の用を全廃したもの
- 第5級6号:1上肢の用を全廃したもの
- 第6級6号:1上肢の3大関節中の2関節の用を廃したもの
- 第8級6号:1上肢の3大関節中の1関節の用を廃したもの
- 第10級10号:1上肢の3大関節中の1関節の機能に著しい障害を残すもの
- 第12級6号:1上肢の3大関節中の1関節の機能に障害を残すもの
さらに、変形障害として、以下の等級があります。
- 第7級9号:1上肢に偽関節を残し、著しい運動障害を残すもの
- 第8級8号:1上肢に偽関節を残すもの
- 第12級8号:長管骨に変形を残すもの
(2)手指の障害
まず欠損障害として、手指の両方または片方の失った程度に応じて、第3級から第14級までの等級があります。
次に機能障害として、以下の等級があります。
- 第4級6号:両手の手指の全部の用を廃した
- 第7級7号:1手の5の手指又はおや指を含み4の手指の用を廃したもの
- 第8級4号:1手のおや指を含み3の手指の用を廃したもの又は1手のおや指以外の4の手指の用を廃したもの
- 第9級13号:1手のおや指を含み2の手指の用を廃したもの又はおや指以外の3つの手指の用を廃したもの
- 第10級7号:1手のおや指又はおや指以外の2の手指の用を廃したもの
- 第12級10号:1手のひとさし指、なか指又はくすり指の用を廃したもの
- 第13級6号:1手のこ指の用を廃したもの
- 第14級7号:1手のおや指以外の手指の遠位指節間関節を屈伸することができなくなったもの
4 下肢の骨折
下肢の主たる骨としては、太ももの骨である大腿骨、膝から足関節までをつなぐ脛骨及び腓骨があり、足関節より先に足指の骨があります。
例えば大腿骨骨折は交通事故による強度の衝撃により生じ、骨折以外にも重篤なけがをしていることが多くあります。骨折部位により転子下骨折、骨幹部骨折、顆上・顆部骨折などの診断名がつきます。
(1)下肢の障害
まず欠損障害として、下肢の両方または片方の失った程度に応じて、第1級から第7級までの等級があります。
次に機能障害は、下肢の3大関節である股関節、ひざ関節及び足関節の可動域の測定値に基づき、以下の等級を定めています。
- 第1級4号:両下肢を用を全廃したもの
- 第5級7号:1下肢の用を全廃したもの
- 第6級7号:1下肢の3大関節中の2関節の用を廃したもの
- 第8級7号:1下肢の3大関節中の1関節の用を廃したもの
- 第10級11号:1下肢の3大関節中の1関節の機能に著しい障害を残すもの
- 第12級7号:1下肢の3大関節中の1関節の機能に障害を残すもの
さらに、変形障害として、以下の等級があります。
- 第7級10号:1下肢に偽関節を残し、著しい運動障害を残すもの
- 第8級9号:1下肢に偽関節を残すもの
- 第12級8号:長管骨に変形を残すもの
また、下肢には短縮障害という等級があります。
- 第8級5号:1下肢を5センチメートル以上短縮したもの
- 第10級8号:1下肢を3センチメートル以上短縮したもの
- 第13級8号:1下肢を1センチメートル以上短縮したもの
(2)足指の障害
まず欠損障害として、足指の失った程度に応じて、第5級から第13級までの等級があります。
次に機能障害として、以下の等級があります。
- 第7級11号:両方の足指の全部の用を廃したもの
- 第9級15号:1足の足指の全部の用を廃したもの
- 第11条9号:1足の第1の足指を含み2以上の足指の用を廃したもの
- 第12級12号:1足の第1の足指又は他の4の足指の用を廃したもの
- 第13級10号:1足の第2の足指の用を廃したもの、第2の足指を含み2の足指の用を廃したもの又は第3の足指以下の3の足指の用を廃したもの
- 第14級8号:1足の第3の足指以下の1又は2の足指の用を廃したもの
5 最後に
上記のような個別の後遺障害等級に該当しなくても、受傷箇所に疼痛などが残存した場合には局部の神経症状として第12級13号または14級9号が認定されることがあります。
交通事故による骨折は多様であり治療によりどこまで治るのかも人それぞれです。治療を受けても症状が改善せずご不安な方は、後遺障害申請のタイミングを含めこれからのことをお気軽に弁護士にご相談ください。
<出典>