未就労者である子供の逸失利益は、どのように計算されるのか

交通事故で人身被害に遭ってしまった場合、後遺障害が残ってしまうことや、最悪の場合、命を落としてしまう可能性もあります。

交通事故による後遺障害が原因で、これまでどおりに仕事をすることができなくなり、収入が減少する場合もあれば、死亡してしまった場合には、収入が無くなるため、将来得られたはずの利益を得られないこととなります。

このように、交通事故被害に遭わなければ、将来得られた利益のことを逸失利益といい、交通事故加害者に請求することのできる逸失利益には、①後遺障害逸失利益と②死亡逸失利益の2種類があります。

以下では、逸失利益がどのように計算されるのか、また、未就労者である子供が交通事故被害者になった場合の逸失利益はどのように計算されるのかについて、詳しく解説していきます。

後遺障害逸失利益とは

後遺障害逸失利益とは、後遺障害が残らなければ、将来得られた利益のことをいい、後遺障害による労働能力の低下の程度、事故前と事故後の収入の変化、将来の転職の可能性、日常生活における支障等様々な事情を考慮して算定されることとなります。

後遺障害逸失利益の基本的な計算式は、以下のとおりです。

・基礎収入×労働能力喪失率×労働能力喪失期間に対応するライプニッツ係数

まず、後遺障害逸失利益算定の基礎となる収入は、原則として、事故前の現実の収入です。具体的には、給与所得者であれば、源泉徴収票等を参考に、事故前年の年収が基礎収入とされることが多いです。もっとも、将来、現実の収入額以上の収入を得られることを立証できた場合には、立証できた金額を基礎収入として算定することもあります。

次に、労働能力の低下の程度を示す労働能力喪失率は、下記の労働基準局長通牒(昭和32年7月2日基発第551号)の労働能力喪失率表を参考にして、被害者の年齢、職務内容、後遺障害の程度、部位等を総合的に考慮して判断することとなります。

障害等級 労働能力喪失率
第1級 100/100
第2級 100/100
第3級 100/100
第4級 92/100
第5級 79/100
第6級 67/100
第7級 56/100
第8級 45/100
第9級 35/100
第10級 27/100
第11級 20/100
第12級 14/100
第13級 9/100
第14級 5/100

そして、労働能力喪失期間とは、後遺障害により、労働能力が低下した期間のことをいい、労働能力喪失期間の始期は、症状固定日(医療機関等での治療を受けたものの、これ以上、症状の改善が無い状態)とされ、終期は、原則として67歳とされています。

また、本来であれば、将来に得られる利益を前払いしてもらうこととなるため、今後発生するはずの利息分を控除するために、ライプニッツ係数を用いて中間利息を控除することとなります。

例えば、令和2年5月1日に事故が生じ、被害者の症状固定時の年齢が35歳(労働能力喪失期間は67歳まで32年)、後遺障害等級第10級、令和元年の年収が400万円の場合、後遺障害逸失利益は以下のとおり計算されます。


400万円×27%×20.389(32年のライプニッツ係数)

=2202万0120円


このように、後遺障害逸失利益は、基礎収入、労働能力喪失率、労働能力喪失期間により算定されることとなります。

死亡逸失利益とは

死亡逸失利益とは、死亡しなければ、将来得られた利益のことをいいます。算定にあたり、基礎収入、労働能力喪失期間(就労可能期間)及び中間利息控除については、後遺障害逸失利益と同様に考えますが、生活費控除が行われる点で異なります。

生活費控除とは、被害者が死亡した場合、将来得られたはずの利益がなくなる一方で、生存していれば生じたはずの生活費が発生しなくなるため、逸失利益の算定にあたって、得られたはずの利益から、生じたはずの生活費を控除することをいいます。そして、生活費控除率の目安は、一家の支柱及び女性は30%~40%、その他は50%とされています。

死亡逸失利益の基本的な計算式は、以下のとおりです。

・基礎収入×(1-生活費控除率)×就労可能年数に対応するライプニッツ係数

例えば、令和2年5月1日に事故が生じ、一家の支柱であった被害者の死亡時の年齢が35歳(就労可能年数は67歳まで32年)、令和元年の年収が400万円の場合、死亡逸失利益は以下のとおり計算されます。


400万円×(1-0.4)×20.389(32年のライプニッツ係数)

=4893万3600円


このように、死亡逸失利益は、基礎収入、生活控除率、就労可能年数により算定されることとなります。

未就労者である子供の逸失利益

逸失利益については、上述のとおり、計算されることとなりますが、被害者が未就労者である子供の場合、基礎収入や労働能力喪失期間をどのように決定するのか問題となります。

まず、基礎収入については、原則として、学歴計・全年齢の平均賃金としますが、大学生又は大学への進学の蓋然性が認められる場合には、大学卒・全年齢の平均賃金を基礎とします。

また、労働能力喪失期間(就労可能期間)の始期は原則18歳とし、大学卒業を前提とする場合には、大学卒業時とします。

そして、被害者が18歳未満で、就労の始期を18歳とする場合には、18歳までの利息分を控除する必要があり、18歳未満の未就労者の後遺障害逸失利益、及び死亡逸失利益の基本的な計算式及び具体例は以下のとおりとなります。

後遺障害逸失利益

基礎収入×労働能力喪失率×{(67歳-症状固定時の年齢)年のライプニッツ係数-(18歳-症状固定時の年齢)年のライプニッツ係数}

例えば、令和2年5月1日に事故が生じ、被害者の症状固定時の年齢が15歳(67歳まで52年、18歳まで3年)、後遺障害等級第10級の場合、後遺障害逸失利益は以下のとおりです。


500万6900円(令和元年学歴計・全年齢の平均賃金)×27%×

{26.166(52年のライプニッツ係数)-2.829(3年のライプニッツ係数)}

≒3154万8426円


死亡逸失利益

基礎収入×(1-生活費控除率)×{(67歳-症状固定時の年齢)年のライプニッツ係数-(18歳-症状固定時の年齢)年のライプニッツ係数}

例えば、令和2年5月1日に事故が生じ、被害者の死亡時の年齢が15歳(67歳まで52年、18歳まで3年)の場合、後遺障害逸失利益は以下のとおりです。


500万6900円(令和元年学歴計・全年齢の平均賃金)×(1-0.5)×

{26.166(52年のライプニッツ係数)-2.829(3年のライプニッツ係数)}

≒5842万3012円


このように、被害者が、未就労者である子供の場合、平均賃金を基礎収入とし、18歳から就労が可能であると仮定して、逸失利益を計算することとなります。

交通事故の示談交渉にあたっては、弁護士に相談を!

以上のように、交通事故の加害者に損害賠償請求することのできる逸失利益には、2種類あり、具体的な金額は、被害者ごとの性質を検討することが必要となります。

弁護士にご依頼いただいた場合、加害者加入の保険会社との交渉一切を引きうけ、被害者の個々の事情を踏まえ、適切に損害額を算定したうえで、示談交渉を行うことができます。

交通事故の被害に遭われたら、まずは、弁護士にご相談ください。