自動車の保有者の運行供用者責任

交通事故のうち、自動車により人身損害を起こした場合には、自動車損害賠償法(以下「自賠法」といいます。)3条により、その自動車の運行供用者は被害者に対し運行供用者責任という責任を負います。民法上の不法行為では、損害賠償請求をする側が加害者の過失を主張立証しなければなりません。しかし、自賠法上の損害賠償責任は、加害者側が、自己に過失がなかったことを主張立証しなければなりません。過失の立証は事案によっては、困難を極めることもあり、立証できないか否かで訴訟の帰趨を180度変えかねないことになるため、主張立証責任が被害者と加害者のどちらにあるかはとても重要な点です。そこで、自賠法の責任を負う運行供用者とはどのような人が該当するのかについて、ご紹介いたします。

運行供用者とは

  「自動車の使用についての支配権を有し、かつ、その使用により享受する利益が自己に帰属する者」をいいます(最判昭43・9・24判時539-40)。
  運行供用者責任の趣旨が、自動車という危険な物を利用している以上、自動車を制御することができる者がその危険を享受すべきという危険責任の観点と、自動車という便利な物を利用する利益を大いに享受する反面、これにより生じるリスクも負うべきという報償責任という観点を考慮したことにあります。したがって、交通事故が発生した時点で実際に運転をしていた者でなくとも、「自動車の使用についての支配権を有し、その使用により享受する利益が自己に帰属する者」に該当する者は、その事故により生じた自賠法上の損害賠償責任を負うことになります。

具体例

  では、運行供用者にあたるのは、どのような人でしょうか。実際の裁判例等をもとにご紹介いたします。

(1)自動車の「保有者」

  自動車の保有者は、運行供用者にあたります。自賠法2条3項は、「自動車の所有者その他自動車を使用する権利を有する者で、自己のために自動車を運行の用に供するもの」を「保有者」と定義づけています。
  つまり、自分の家族や友人に自動車を貸したような場合で、その人が事故を起こしてしまった場合において自動車の「保有者」にあたるので、「保有者」は実際に運転をしていなくても、運転者と共に事故の損害賠償責任を負わされることになります。

(2)自動車が盗まれていた場合

  ご自身の車を他人が運転していた場合に必ず自動車の所有者が責任を負う、というわけではありません。自動車が窃取された場合には、保有者は、「特段の事情」がなければ、当該自動車についての支配力と利益を失ってしまうため、盗まれた時点でもはや運行供用者ではありません。したがって、窃盗犯人が起こした事故については、自動車の所有者等の人は、自賠法3条の損害賠償責任を負いません(最判昭和48・12・20民集27-11-1611)。この場合には、窃盗犯人に、自動車の支配力と利益が帰属することになるので、窃盗犯人が運行供用者と評価されます。
  ちなみに、上述した「特段の事情」とは、窃盗犯人が親族関係・雇用関係にある場合であったり、鍵をかけずに路上放置していた事例のように鍵の保管に過失があった場合が考えられます。

(3)同乗者

  この者が自動車についての支配と利益を有していたかどうか具体的な事実関係により、運行供用者か否かが決められます。判決によると、自己所有の自動車の運転を知人に委ね同乗していた保有者もみずからが運行目的を有し、かつ、いつでも運転の交代その他運転につき具体的指示・命令を出せる状態にあったときには、運転者が保有者の「運行支配に服さず同人の指示を守らなかった等の特段の事情」がなければ、運行供用者とされます(最判昭和55・6・10交通民集13-3-557、最判昭和57・11・26民集36-11-2318)。

(4)保有者からの一時借用者

  自動車の持ち主から一時的に借用した人も、一時的にせよ自動車を支配し、その利用利益を得ていたものといえるので、借用中は運行供用者に該当します。

(5)レンタカー業者

  レンタカー業者も運行供用者に該当すると判断されています(最判昭46・11・9民集25-8-1160、最判昭50・5・29判時783-107)。

(6)修理のために自動車の修理業者に預けている場合

  修理のために修理業者に自動車を預けてしまった場合には、修理業者は運行供用者に該当すると判断されております(最判昭44・9・12民集23-9-1654)。しかし、修理業者から注文者に自動車が返還された場合には、特段の事情のない限り、引き渡し以降の運行は注文者の支配下にあるとして、注文者の代わりの者が自動車の引き渡しを受けた場合であっても修理の注文者が運行供用者に該当すると判断した最高裁判決もあります。(最判昭46・7・1民集25-5-727)。

最後に

  自動車を所有する方は、普段自動車の恩恵を多く受けていることでしょう。自動車の運転者のみならず、自動車の持ち主なども人身事故の責任を負わせるのが自賠法の仕組みとなっています。もちろん、運行供用者に該当するか否かは事案ごとの個別具体的な事情により変動する場合があります。当事務所では、医療にも交通事故にも詳しい弁護士が、交通事故でお困りのみなさまの対応にあたらせていただきます。