交通事故被害者に筋・骨萎縮がなくCRPSを否定した裁判例(東京地裁平成26年3月18日)
交通事故後に、上肢などに、強い疼痛等の症状が残存し、RSD(反射性交感神経性筋ジストロフィー)やCRPS(複合性局所疼痛症候群)と診断されることも少なくありません。RSDやCRPSと診断された場合には、重度後遺障害として、後遺障害が認定されることもあります。ここで、CRPSとは、軽微な外力で生じ、重篤な障害を残す可能性のある疾患で、外傷後に、灼熱痛や腫脹などの症状が消退せず、いつまでも継続する状態、などとされています(今日の整形外科治療指針)。RSDは、国際疼痛学会の分類では、CRPSの一部とされています。そして、同学会においては、以下の診断基準が作成されています。
①先行する事象に不釣合いな持続的疼痛
②以下の4項目のうち3項目に少なくとも1つのsymptomがあること
・知覚過敏の訴え,アロディニアの訴え
・皮膚温左右差の訴え,皮膚色の変化の訴え,皮膚色の左右差の訴え
・浮腫の訴え,発汗変化の訴え,発汗の左右差の訴え
・可動域制限の訴え,運動障害(筋力減少,振戦,ジストニア)の訴え,萎縮性変化(毛,爪,皮膚)の訴え
③評価時に以下の項目の2つ以上の項目に少なくとも1つのサインがあること
・疼痛過敏(ピンプリック)の証明,(軽い接触,圧覚,関節運動による)アロディニアの証明
・皮膚温左右差の証明,皮膚色の変化の証明,皮膚色の左右差の証明
・浮腫の証明,発汗変化の証明,発汗の左右差の証明
・可動域制限の証明,運動障害(筋力減少,振戦,ジストニア)の証明,萎縮性変化(毛,爪,皮膚)の証明
④上記の症状とサインをよりよく説明する他の診断が下せないこと。
本裁判例は、自動車同士の交通事故で、上肢のRSD・CRPS等から重度後遺障害を残存したとするXが、損害賠償請求を求め訴訟提起したものですが、診断書や医師の証言をもとに、「CRPStype1による症状と評価すべき腫脹が生じていたと認めることは困難である」、「関節拘縮の診断を受けた後に両上下肢を利用して健常者と異ならない行動を行っていること」、主治医が「関節拘縮ないし骨萎縮が進んでいないと述べていること」などから、「Xに関節拘縮ないし骨萎縮が生じていることを認めることは困難である」とし、XのCRPSを否定しています。
未だ、整形外科医の中には、CRPSの診断基準等を正確に理解把握していないものもおり、安易に、CRPSやRSDといった病名がつけられることも少なくありません。しかしながら、本裁判例の様に、交通事故における損害賠償の実務においては、診断基準や症状経過等が厳格に判断される傾向にありますので、CRPSやRSDの診断を受けた場合には、早めに、交通事故や医療に詳しい弁護士に相談をすることも大切です。