交通事故被害者の搭乗者保険と損害賠償の減額
搭乗者保険は、被保険自動車の運行に起因する急激かつ外来の事故などによって、被保険自動車に搭乗している者が身体に傷害・後遺障害を被った場合に支払われる保険です。
搭乗者保険金は、契約者の保険料支払いの対価として受け取れるものです。
そのため、搭乗者保険金を受け取ったとしても、交通事故の被害者が交通事故の加害者に請求する損害賠償請求権に影響を与えません。この点については、下記の最高裁判例が存在します。
最高裁平成7年1月30日判決の判示
「本件条項は、保険契約者及びその家族、知人等が被保険自動車に搭乗する機会が多いことにかんがみ、右の搭乗者又はその相続人に定額の保険金を給付することによって、これらの者を保護しようとするものと解するのが相当だからである。そうすると、本件条項に基づく死亡保険金を右被保険者の相続人である上告人らの損害額から控除することはできないというべきである。」
しかしながら、さらに解決されていない問題があります。
搭乗者保険金が損害額から控除されないとしても、被害者の慰謝料を算定するにあたり、搭乗者保 険金を受け取っていることが斟酌され慰謝料の減額がされる場合があります。
例えば、東京高裁平成 7年 4月12日判決は以下のように判示し、慰謝料の減額を肯定します。
「搭乗者傷害保険の死亡保険金は、これを搭乗者の損害賠償額から控除することはできないが(最高裁判所平成三年(オ)第一〇三八号平成七年一月三〇日第二小法廷判決参照)、その保険料を加害者または加害者側が負担している場合には、右保険金は見舞金としての機能を果たし被害者ないしその遺族の精神的苦痛の一部を償う効果をもたらすものと考えられるから、これを被害者またはその相続人の慰謝料の算定にあたって斟酌するのが、衡平の観念に照らして相当というべきである。」
ここで注目すべきは、上記東京高裁判決は、加害自動車に同乗していた方が被害にあった事案ということです。
この事案では加害自動車を被保険自動車とする搭乗者保険から被害者に保険金が支払われましたが、この搭乗者保険の保険料は加害者側が支払っていたのです。裁判所は加害者側が保険料を支払っていると認定した理由として、保険料を支払っていた者(会社)が加害者が取締役を務める会社であったこと、交通事故の損害賠償金も当該会社が保険料を負担する任意保険から支払われる関係にあったこと等を挙げています。
損害額から搭乗者保険金を控除しない(損益相殺しない)との最高裁の立場と慰謝料減額事由とすることを肯定する裁判例は、理論的には両者が抵触しないと解することも可能ですが、被害者側の立場からすると釈然としないものがあります。
もっとも、慰謝料斟酌を肯定する裁判例の理由付けからすると、交通事故の被害者側が保険料を支払っていた搭乗者保険から保険金を受け取った場合には、慰謝料減額事由として斟酌されない可能性が高いといえるでしょう。
詳細は、交通事故に詳しい弁護士にご相談ください。