交通事故と高次脳機能障害
1983年に起きた落下事故により頭部を受傷した被害者が、事故から約25年後に高次脳機能障害と診断を受けたことについて、2014年4月14日、東京地方裁判所が当該高次脳機能障害を落下事故の後遺症として認定する判決を言い渡しました。
高次脳機能障害とは、明確な医学的定義はありませんが、種々の原因により脳が部分的に損傷されたために、言語・思考・記憶などの知的な機能に障害が起こった状態を指します。
交通事故のケースでは、脳が損傷されたことにより、一定の期間以上、意識が障害された場合などに起こりやすいとされ、交通事故実務においては、前述の症状に人格変化を加えた広範囲のものを高次脳機能障害といいます。
高次脳機能障害は脳の損傷に起因するものの、取り扱う診療科は脳神経外科に限らず、当事務所代表弁護士が医師として従事している整形外科やリハビリテーション科、精神科なども挙げられます。
この障害は外見上目立たず、ご本人様が障害を十分に認識できていない場合もあることや、受診時よりも日常生活などにおいて出現しやすいこと、急性期には他の目立つ外傷に目が行きがちであることなどから、医師による診断が遅れてしまう場合もあります。
重度の高次脳機能障害がある場合は、将来にわたり高額な医療費や介護費などの負担が避けられません。この負担を軽減するためにも、交通事故により高次脳機能障害を受傷された場合は、適切な後遺障害等級認定を受け、適切な賠償を受けることが重要です。
ところで、この高次脳機能障害の後遺障害認定においては、自賠責保険と裁判所では判断基準が異なります。
自賠責保険の等級認定においては、頭部外傷後の意識障害についての所見、神経系統の障害に関する医学的意見、日常生活状況報告などの書類の提出や、FDG-PET、CT、MRIなどの画像所見の提出も有効とされますが、画像所見のみで異常が認められることは難しく、これらの所見から総合的に判断がなされます。
なお、MRIの撮影法の中で拡散強調画像(DWI)及び磁化率強調画像(SWI)を用いれば、CTや従来のMRIでは描出できなかった損傷がわかることもあると言われており、交通事故発生による受傷後2、3日以内にMRIを撮影することが有効なこともあります。
しかし、頭部外傷では、まずは骨折や脳出血の有無の診断が重要であり、MRIよりも簡易に撮影でき骨折や脳出血の鑑別にも有用なCTが選択されることが多く、急性期から亜急性期にかけてMRIが施行されることは多くありません。
このように最も適切な時期に画像が撮影できなかった方、高次脳機能障害とは診断されていなくてもその疑いがある方は、一度、交通事故に詳しい弁護士などの専門家にご相談なさることをおすすめします。