交通事故における時効の問題
交通事故の被害者は加害者に対して民事上の損害賠償請求権を有します(根拠規定として民法709条及び民法709条の特則である自賠法3条などがあります)。もっとも、この損害賠償請求権は、一定の期間を経過すると時効により消滅し行使することできなくなってしまいます。今回は、このような交通事故における時効の問題について説明致します。
1 時効の起算点
交通事故の被害者の加害者に対する損害賠償請求権は不法行為に基づくもので、「被害者又はその法定代理人が損害及び加害者を知った時から三年間行使しないときは、時効によって消滅」(民法724条)します。この規定によると、被害者が損害及び加害者を知った時から時効が進行します。この時点を時効の起算点といいますが、時効により権利が消滅することを防ぐためには、この時効の起算点がいつかを知っておく必要があります。以下時効の起算点について、「損害を知った時」と「加害者を知った時」に分けて詳述します。
(1)「損害を知った時」
「損害を知った時」とは、被害者が損害の発生を現実に認識した時を意味します。具体的には、物損による損害では、事故日になります。また、傷害による損害(治療関係費、休業損害、傷害慰謝料など)については、症状固定日と考える余地がありますが、事故日と考えておくのが安全です。さらに、「後遺障害による損害」(後遺障害逸失利益、後遺障害慰謝料など)については、症状固定日となるのが原則です。
(2)「加害者を知った時」
「加害者を知った時」とは、損害賠償請求が事実上可能な程度に知った時を意味します。具体的には、被害者が加害者の氏名、住所を確認したときです。
2 時効の中断
民法に定められた時効中断事由があれば、時効は中断します(民法147条)。時効により権利が消滅することを防ぐためには、どのようなことをすれば時効が中断されるのかを知っておく必要があります。以下、交通事故の被害者の加害者に対する損害賠償請求権で主に問題となる「請求」と「債務の承認」について詳述します。
(1)「請求」
「請求」とは、裁判上の請求、すなわち、法的手続により請求することを意味します。訴訟の提起が代表的なもので、裁判所に訴状を提出したときに時効は中断します。相手方に、単に口頭や手紙で請求しただけでは、催告として時効期間を6か月間延ばすことはできても、時効は中断しませんので注意が必要です。
(2)「債務の承認」
「債務の承認」とは、被害者に損害賠償請求があることを、加害者が認める行為です。具体的には、加害者を代理している任意保険会社が被害者に対して治療費などを支払うこと、賠償額を提示することなどがこれにあたります。
3 最後に
時効期間が経過した場合には、被害者が受け取れるはずであった賠償金を受け取ることができなくなる恐れもありますので、治療が長引いている場合などは早い段階で弁護士に相談することが大切です。
大阪A&M法律事務所では交通事故の被害者の方の相談をお待ちしております。