交通事故の後遺症
交通事故による後遺障害についてはこちらのとおりですが、後遺障害の等級認定上、重要となってくる医学的所見などについて、少しご説明します。
後遺症を伝えるための医学的所見(後遺障害診断書等)
後遺障害診断書がなくては後遺障害等級認定の請求はできません。後遺障害診断書の書式は、歯科とその他で異なります。
後遺障害診断書は、症状固定時期に診察を担当していた医師に作成を依頼するケースが多く、もし複数の診療科を受診しており、それぞれ後遺障害が残存するのであれば、科別に後遺障害診断書を作成することとなります。
また、むちうちや高次機能障害など特定の症状に限らず、症状や診察所見の経過や推移を詳述するため、医師に対し、後遺障害診断書とは別に、症状や診察所見の経過や推移を記載した書面の作成を依頼し、等級認定の請求書類に添えるケースもあります。
しかし、医療機関で従事する医師の立場としては、症状固定時など、診察から相当の期間が過ぎてから過去の病状を遡り医学的所見を記憶に基づいて記載することは困難であり、カルテ等の診療記録に基づいて記載せざるを得ません。
そうしますと、日頃からカルテをしっかり記載している医師に依頼する場合は良いのですが、そうでない場合は、実際の症状や診察所見の推移を正確に記載してもらうことが困難となることもあります。
医師がカルテにどのようなことを記載しているかにも少し気をかけて頂きながら、ご自身の症状を正確に主治医に伝えることが大切かと思います。
むちうち症の場合の神経学的な検査
【知覚検査】
筆や針などを用い、触覚や痛覚を検査し、異常のある範囲を特定する検査です。
皮膚分節図と照らし合わせることで、損傷している神経の領域を推測することができるため、重要な神経学的検査です。
【スパーリングテスト・ジャクソンテスト】
どちらも神経根症状を調べるもので、セットで行われることが多いです。
機械や道具を用いる検査ではなく、患者に頭を左右や後方に傾けてもらって、検査をする側が手で患者の頭を上から押さえます。
そのとき、患者が肩や腕などに痺れや腫れなどの症状を感じると、陽性となります。
【腱反射】
膝のお皿のしたあたりをトンっと叩くと膝下が跳ね上がる、という現象をみなさまご存知でしょう。
これを腱反射というのですが、神経に障害が生じていると、腱反射が低下したり、逆に亢進したりします。むち打ち症の場合は、腕を支配する神経の障害が問題となりますので、肘や手関節の腱反射の異常の有無を確認します。
【筋萎縮検査・握力検査】
交通事故後、痺れや痛みのために手や脚の運動量が低下すると、次第に筋肉が痩せてきます。このように、筋肉が痩せた状態を筋委縮といいます。
むち打ち症の場合は、前腕、上腕の周囲径を計測し、左右差などをみることで痩せているかどうかを検査します。
また、筋力低下の度合いをみるために握力検査もよく行われます。これらの検査は、数字で結果がでるため、一般的には客観性の高い検査とされています(握力は、頑張らないことで低い数字とすることが可能ですので慎重な判断が必要です。)。
後遺障害と後遺症の違い
後遺障害と後遺症は日本語の語感としては似たように感じられますが、交通事故の損害賠償請求という局面では、以下のような違いがあります。
まず、後遺症とは、交通事故に限られず、事故や疾病などのあとにその医学的な治療が終わった後にも、完治しないで何らかの症状や障害が残ってしまうことを広く指す概念になります。
一方の後遺障害とは、後遺症の中で特に交通事故被害を原因とするものであって、それにより被害者の労働能力が喪失または減退された場合にのみ認定されうる概念になります。
後遺障害として認定されると、加害者側に対して後遺障害慰謝料や後遺障害逸失利益という2種類の損害賠償金を請求することができます。後遺障害として認定を受けるためには、自賠責事務所という第三者機関に対して後遺障害等級認定申請をする必要があります。
自賠責事務所は申請された書類を審査して、後遺障害を認定する場合、1級から14級にわけて認定をします。後遺障害等級は等級が若いほど重篤な後遺障害ということとなり、その分受け取ることができる損害賠償金の金額も大きくなります。
損害賠償金の項目の一つである後遺障害慰謝料とは、後遺障害を負ってしまったことについての被害者の精神的な苦痛についての慰謝料のことをいいます。
後遺障害逸失利益とは、後遺障害の存在により、被害者の労働能力が喪失したり低下したりするので、本来健康な状態であれば将来にわたり獲得できたはずの収入などが獲得できなくなってしまったことに対する金銭的補償となります。
後遺障害等級認定の流れ
後遺障害等級認定は、概ね以下のような流れで進行します。
- 医師から症状固定の診断を得る
- 医師に後遺障害診断書を作成してもらう
- 加害者側の保険会社に必要書類を提出する
- 書類をもとに審査が行われる
- 後遺障害等級が認定される
①医師から症状固定の診断を得る
交通事故被害にあった場合、まずは病院に入院あるいは通院して怪我等を治療することとなります。治療中は、加害者の保険会社から傷害分の損害賠償金として、治療費、交通費、付添看護日、入院雑費、休業損害、入通院慰謝料等を受け取ることとなります。
治療を継続していくうちに、怪我等が完全に回復する場合もありますが、怪我の程度によっては一定の症状が残り、その後治療を続けても回復しない状態となることもあります。
症状固定をした後は、これまで加害者の保険会社から受け取っていた傷害分の損害賠償金の支払いは終了しますので、後遺障害等級認定申請をして、後遺障害分の損害賠償金として後遺障害慰謝料や後遺障害逸失利益の受け取りを目指していくこととなります。
なお、症状固定により傷害分の支払いが終了するため、場合によっては加害者の保険会社側からそろそろ症状固定をしないか打診をうけることもあります。
しかしながら、症状固定は、症状の状態を最もよく知っている被害者ご自身が主治医と相談しながら決めていくものになりますので、保険会社から打診をされた場合であっても納得がいかない場合は応じる必要はありません。治療を継続したいと考えているか等を含めて主治医とよく相談して決めましょう。
②医師に後遺障害診断書を作成してもらう
症状固定後、自賠責事務所に後遺障害等級認定をしてもらうためには、申請書類として主治医が作成する後遺障害診断書が必要になります。
後遺障害診断書には、症状固定日や治療状況、残存する後遺障害についての自覚症状、他覚症状、検査結果、今後の見通しなどが記載されます。
後遺障害等級認定申請の方法には、加害者の保険会社を通じて書類を提出する事前申請と、被害者自らが書類を準備して申請をする被害者申請の2種類がありますが、いずれの場合も後遺障害診断書は必要となります。
③書類をもとに審査が行われる
後遺障害等級認定申請を受けた自賠責事務所は、後遺障害診断書を含めた書類を審査して、後遺障害等級を認定するか、認定するとすればどの等級に該当するかについて決定をします。
ポイントとなるのは、自賠責事務所の審査は、書面主義といって、提出された書類のみを資料として判断がされるという点です。この点は、被害者の面接などで聞き取りを行う労災の認定等とは異なります。
そのため、納得のいく結果を得るためには、ポイントを押さえた書類を提出することになります。
④加害者側の保険会社に必要書類を提出する
後遺障害等級認定申請の方法には、被害者自らが申請する被害者請求と、加害者の保険会社を通じて申請する事前認定の2通りがあります。
被害者請求をする場合は、後遺障害診断書は被害者から自賠責事務所に直接提出しますが、事前認定の場合は、まず加害者の保険会社に送るということになります。提出を受けた加害者側の保険会社は、後遺障害診断書の他に必要になる書類を各機関から収集し、とりまとめて自賠責事務所に提出をします。
事前認定、書類収集の多くの部分を相手方の保険会社が代行してくれるので、被害者にとっては申請の手間や時間を省略できるというメリットがあります。
しかしながら、デメリットとしては、相手方の保険会社は積極的に後遺障害等級認定を獲得するという立場にはないので、どうしても送付する資料が必要最低限となってしまう可能性があるという点があります。
自賠責事務所の審査は書面審査になるため、資料不足により十分な等級認定がされない可能性があります。後遺障害の程度や該当しそうな等級によっては、被害者申請を検討したほうがよいでしょう。
⑤後遺障害等級が認定される
自賠責事務所の審査が完了すると、後遺障害等級が認定され、認定に応じた損害賠償金が支払われることになります。
なお、被害者申請の場合は、認定された後遺障害等級が通知されると同時に、等級に応じた損害賠償金が振り込まれます。
一方、任意保険会社を通じた事前認定により申請している場合には、損害賠償金の振り込みはその保険会社との示談交渉が終了してから振り込まれるということになります。
適正な後遺障害等級認定を得るポイント
後遺障害等級認定を受けられなければ、症状固定後に残った後遺症についての金銭的補償をうけることができません。
また、認定される等級の違いにより、受取ることができる金額には大きな差があります。
そのため、被害者としては、適正な後遺障害等級認定を得るためのポイントを知っておく必要があります。
知っておきたいポイントとしては、①早めに弁護士に相談する、②検査を徹底的にする、③治療は継続的に受けるという、3つがあります。
早めに弁護士に相談する
後遺障害等級認定申請をするにあたっては、早めに交通事故に詳しい弁護士に相談することをおすすめします。
後遺障害診断書等を作成するのは主治医ですが、主治医は医療のプロフェッショナルであり、後遺障害等級認定申請に有利な診断書の書き方等に精通しているとは限りません。この点、交通事故案件の取り扱い実績が多い弁護士であれば、後遺障害診断書の作成に慣れた病院を紹介することもできます。
そのため、事故後なるべく早めに相談することがよいといえます。
また、自覚症状の伝え方などの工夫など、適切な後遺障害診断書の作成のための主治医とのコミュニケーションについてもアドバイスしてもらうことができます。
検査を徹底的にする
後遺症の状態によっては、症状の存在やその程度を証明するために医学的検査を追加で受けておいた方がよい場合もあります。レントゲンやMRIなど客観的に症状が確認できる検査結果があれば、後遺障害等級認定にあたって、後遺障害が存在することの強力な証拠となります。
どのような検査を受ければよいかについては、弁護士や主治医とよく相談しましょう。
治療は継続的に受ける
適切な後遺障害等級認定を受けるためには、治療を継続的に受けておくことが重要です。症状が改善されたように感じても、自己判断で通院を中断したり中止したりしないようにせず、弁護士や主治医と相談しましょう。
通院日数が短すぎたり、通院間隔が長すぎたりすると、後遺障害について交通事故との因果関係に疑義をもたれてしまい、適切な後遺障害等級認定がなされない可能性があるからです。
後遺障害等級認定の請求先
後遺障害の等級認定の請求は、加害車両の自賠責保険の保険会社に対して行います。通勤中などの交通事故であれば、労災にて等級認定の請求をすることも可能です。
基本的に、労災の等級認定より自賠責保険の等級認定が先行する形になります。
詳細は、交通事故に詳しい弁護士にご相談ください。