低髄液圧症候群をブラッドパッチの効果がないと否定した裁判例(千葉地方裁判所判決平成26年6月19日)
交通事故と低髄液圧症候群
交通事故により、当初はむちうち損傷(頸椎捻挫)などと診断されていた交通事故被害者の方が、頭痛,嘔吐,嘔気,耳鳴,めまいなど多彩な症状が続き、RI脳槽造影,CTミエログラフィー,脊髄MRIなどの画像検査で、脊髄高位での脳脊髄液の漏出が確認されるということで、低髄液圧症候群と診断されることがあります。交通事故後の低髄液圧症候群については、一部の医師が提唱し始めた概念で、整形外科医を中心に、交通事故後に低髄液圧症候群が生じること自体に疑問が投げかけられているのが現状です。もっとも、厚生労働省の研究班が、2011年に脳脊髄液漏出症の画像判定及び診断基準(案)を公表したこともあり、交通事故の低髄液圧症候群(脳脊髄液漏出症)を認定した裁判例も散見されます。厚生労働省の研究班自体も、その名の如く研究をしているにすぎず、未だ、医学的に確立された疾患概念ではないため、低髄液圧症候群(脳脊髄液漏出症)について、裁判上で一定の見解が出るには一定の時間を要することになるでしょう。
低髄液圧症候群をブラッドパッチの効果がないと否定した裁判例(千葉地方裁判所判決平成26年6月19日)
本裁判例(千葉地方裁判所判決平成26年6月19日)は、脳脊髄液漏出症の診断基準としては、「厚労省研究班基準が、現時点における確立した医学的知見に基づくものとして最も重要な診断基準であるというべきである。ただし、厚労省研究班基準は途中解析の結果であることや、髄液漏れが確実な症例を診断するための厳格な基準であり、その周辺病態の取り扱いに関しては更なる検討が必要であるとされていることからすれば、現時点において上記診断基準のみをもって脳脊髄液漏出症に罹患しているかを判断するのも相当とはいえない」とし、「原告が脳脊髄液漏出症であると認められか否かは、厚労省研究班基準を中心として、これまで学会において多数の支持を集めてきた国際頭痛分類や日本神経症学会の診断基準も踏まえつつ、経験則に照らして全証拠を綜合検討し、高度の蓋然性の証明があったと認められるか否かを判断するのが相当である」としました。その上で、「ブラッドパッチにより明らかな症状の改善があったとまではいえない。」とし、脳脊髄液漏出症を否定しました。
まとめ
交通事故後に、頭痛、吐き気等の症状が残っているにもかかわらず、主治医からは、むち打ち症(頸椎捻挫)との診断のもと、効果的な治療を受けられない方は一定程度いらっしゃいます。インターネットでは、このような症状について低髄液圧症候群(脳脊髄液漏出症)であるとするようなものが散見されますが、本裁判例(千葉地方裁判所判決平成26年6月19日)が判示するように、低髄液圧症候群(脳脊髄液漏出症)は確立された医学概念ではありませんので、主治医の医師と、よく相談することが重要です。